10.「十日の、まだほのぼのとするに」

9月10日。さてこの日、御座所のしつらえを白一色に模様替え。盛んに加持祈祷が行われる。彰子は、「いと心もとなげに、起き臥し暮らさせたまひつその日一日中、とても不安そうなご様子で、起きたり伏せったりしてお過ごしになった」という状態。内裏の女房たちが狭い部屋にぎっしりと40人も集まっていたというのである。それじゃあ、酸欠になるがな。張りつめた雰囲気の中、どの人も軽い興奮状態におちいっている。いよいよお産が近づいたのだというムードがひしひしと伝わってくる。

さて、この日の『御堂関白記』に道長は、

「娘(彰子)の様子を見に行っていカミさん(倫子)が、『あなた、もうそろそろですわよ』などと言う。担当者たちにメール(消息=手紙)を書き、すぐに出仕するよう命じる。他のスタッフも大勢集まってきた。終日気を揉んで過ごした」(tsunの意訳)

と書く。倫子は出産経験が豊富だから、落ち着いて状況が判断できたんだろう。さすが母親だ。交わされたであろう夫婦の会話を想像すると、孫の誕生を待ちわびる世間一般の夫婦のそれと同じだと思った。