9.「その夜さり、御前にまゐりたれば」

その夜、とは、前段の9月9日夜のこと。中宮彰子は、「例よりもなやましき御けしきにおわしませばいつもよりもお苦しそうなご様子」という状態。紫式部は、「しばしと思ひしかど寝にけりちょっと休もうと思って横になったところ、つい寝てしまった」。彼女はあくまで教育係であって彰子のお世話係ではなかったから、今のうちにと休んでいるのだ。「夜中ばかりより、さわぎだちたりてののしる夜中ごろから人々が騒ぎ出して大声を出している」。解説にはこの夜から産気づいたとある。もしこれが陣痛の始まりだとしたら、出産まで約36時間苦しんだことになる。