信号待ちの時何気なく前の車を見やると、赤ちゃんが乗っているのに気づいた。かわいらしい顔をこちらに向けて、リアシートの背もたれをよじ登ろうとしている。目が合うと歯のない口を開けてにっこり笑う。よだれにぬれた唇がつやつやしている。ヘッドレストにつかまった腕はぷくぷくに太って、とっても柔らかそうだ。なんて赤ちゃんてかわいいんだろう、こんな風景は久しぶり、と思ったとき、ああそうか、と思い至った。チャイルド・シートだ。

以前ならこのような風景は往々にして見かけたものだ。けれど、チャイルド・シートの使用が義務化された今、赤ちゃんは車内での自由を完全に奪われた。もはや自由に動き回ることはできないのだ。もちろんそのほうが赤ちゃんにとって安全だ。安全の方が大事に決まっている。けれど、それと引き替えに、ほほえましい風景からは遠ざかってしまったんだなあと思った次第。