(私は結婚前鉄鋼メーカーに勤めていたのだけれど、)入社して最初に教育されるのが「安全」だ。「安全」は、「生産コスト」や「品質」よりなによりもまず第一に優先されるべきであると、徹底的に教え込まれる。事故には至らなくても、危なかったという場面に遭遇しただけで「ひやり・はっと事故」として扱われる。そして本当の事故にならないようにお互い注意を促すのである。

工場勤務とはいっても事務職では安全などあまり関係ないと思われるかもしれない。しかしそんなことはない。欠けた湯飲み茶碗で手を切れば不安全行為だし、階段から足を滑らせ擦り傷を作れば「災害速報」が回覧され、事故の原因が直ちに究明され、階段の摩耗した滑り止めがすぐさま交換される。それほど「安全第一」は従業員共通の意識なのだ。ちなみに工場内には「目指せゼロ災害!!」の横断幕が至る所に掲示してあるし、挨拶はいつでも「ご安全に!!」である。それほど、工場においては「安全」が重要視される。

だから、この度の某ドラマのロケ中に起こった事故は、あまりにも稚拙に思える。俳優の運転技術しかり、現場でのギャラリーの誘導しかり。テレビ番組を制作するプロなら、安全意識もプロであるべきだ。あんな派手なカーアクションを繰り広げるそのすぐそばに観客が大勢いたこと自体驚きだ。

制作会社側にはサービスの一環という気持ちがあったのだろう。ロケを見に来た人はきっとテレビの放送も見てくれるだろう、そういう思惑もあったに違いない。でもこの場で一番大切なのは、サービスや視聴率ではない。俳優やスタッフ、観客の「安全確保」である。それより優先すべきことがこの場であるだろうか?

この会社にはそういう視点がすっぽりと抜け落ちていたと言わざるを得ない。制作会社の猛省と安全意識の改革を求めたい。そして、こういう職業だけでなく、農業や漁業、サービス業、もっと広く考えれば、私たちの生活全般にわたって、安全を常に意識することはとても大切だと、声を大にして言いたいと思う。ついつい忘れがちな安全、痛い思いをして改めてわかる安全の大切さ。この事故をきっかけに自分の身の回りの安全をもう一度確認してみようと思う。