22.「九日の夜は、春宮の権の大夫」

9日目の御産養は、道長の長男、頼通の主催。お祝いの行事は続く。この時、頼通は17歳。お祝いの品々や作法には、気合いが入っていて、とてもモダンなものだったらしい。若者の感覚で精一杯がんばったのね。お父ちゃんは「ここはバッチリ決めろよ!」と息子にハッパをかけたに違いない。

この段の最後のところ、「こまのおもとといふ人の、恥見はべりし夜なり(この夜は)こまのおもとという人が、(人々の面前で)恥ずかしい思いをした夜でありました」は、朴おじさんの言う、捨て台詞その5である。なかでもこの一文は、大問題なのである。萩谷朴は、この「こまのおもと」は清少納言の娘だとしている。だとすると、すごい意味深だ・・・。

さて、何度か出てきたこの捨て台詞、式部はもっと書きたいことがあったんだろう。が、それを書いてしまうと話題がそれて、主題を見失うことになってしまう。それを避けるため、簡略に書き記したのが、朴先生の言う「捨て台詞」なのである。そこに説明や感想はない。おそらく当時の人々は、この部分を読めば、式部が何を書こうとしたのかすぐにピンときたんだろう。そして、なぜ唐突に記され、簡単に切り上げているのか、その事情もすぐに察することができたのだろう。式部はその効果を十分考慮に入れて書いたに違いないと思う。本当のところ、式部はいったい何が言いたかったんだろう? 1000年経った今も式部のメッセージを受け取ろうと耳をすましている。