1.「秋のけはひ入りたつままに」

「土御門殿の有様、いはむかたなくをかし」と続く、『紫式部日記』の有名な書き出しである。土御門邸の秋の風情を記したあと、すぐに中宮彰子の話題に。この方に仕えると「現し心(憂き世のこと)をばひきたがへ」(ふだんの沈み込んだ気持ちとはうってかわったようだ)と書き記す。紫式部が「憂き世」と書く訳は? 紫式部の本当の気持ちは? これは『紫式部日記』を読み進めていく上で、大きなテーマのひとつにしたい。