女性の煙草

女性が煙草を吸っている姿が好きだ。

なぜ女性の煙草が好きなのか。それは祖母の影響だ。大好きだった祖母。もの静かに煙草を吸っていた。ゆっくりと、根元まで。お正月に親戚中が集まってワイワイやっていても、煙草を吸いながらみんなの話に耳をかたむけていた。「煙草をのむ」という表現のほうがあっているかもしれない。紫煙にかすむ祖母の横顔。祖母が好きだから、煙草を吸っている祖母の姿も思い出のうちだから、祖母と煙草は切っても切れないから、女性が煙草を吸っている姿が好きなのだろうと思う。へんな理屈だけど。

母も煙草を吸う。その姿も私は好きだ。ところが母は自分の喫煙に劣等感を持っている。外出すると、人前では絶対に煙草を吸わない。一緒に食事に行っても、食後に一服してくれてもぜんぜんかまわないのに、わざわざ人目の付かない場所を探して煙草を吸いに行っている。そういう母を見るのは、本当はイヤだ。堂々と吸えばいいのに。一度そう言ってみたことがあるけど、万が一でも近所の人に見られたらイヤなのだそうだ。そういう母も本当はイヤだ。でも母の考えでそうしているのだから、仕方ないと思う。「今まで煙草をやめてなんて言ったことないでしょ」と告げた時だけは少しうれしそうだった。

私は煙草を吸わない。これからもきっと吸わない。でもあこがれている。もし煙草を吸うなら、ゆっくり、物思いにふけりながら吸ってみたい。待ち合わせの時なんかよさそうだ。トントンと灰を灰皿に落としてみたい。煙草の火を消す時は、どんな風にすれば優雅に見えるだろう。研究しなくては。ライターはどんなのがおしゃれだろう。でもきっとなくすから100円ライターを使っているに違いない。そんなことを想像してみるだけでけっこう楽しい。