また会う日まで

tsun2005-08-01

くろでか号と別れるのは、ほんとうは少し未練があった。もう一台車を買うと決めた当初は中古車を探していて、それを夫が赴任先に持っていくことになっていた。つまりくろでか号は私のもとに残るはずだったのだ。ところが、どこに行っても「奥様用のセカンドカーをお探しですか?」と言われるのである。途中で、小さくてもいいから新車を買おうということになって、ディーラー巡りに切り替えたのだけれど、やはり「買い増しですよね。奥様のセカンドカーですか?」と営業さんに尋ねられるのである。

なぜ、2台目が中古だと奥様のになるの? なんで2台目が小さい車だとそっちが奥様用だと思うの? 夫婦茶碗だとか夫婦箸でさえ大小なのが気に入らないこのわたしく、行く先々で憤慨しておりました。が、完敗でしたね。ほぼ100%、「奥様用をお探しで?」と言われた日にゃあ、心の底から「世間に負けた」と思いましたね。

もひとつ、くろでか号を運転していてなにがうれしかったって、心から敬愛する武田百合子さんが、赤坂の自宅と富士山麓の別荘との往復で、大作家武田泰淳を隣に乗せて運転していたのがこの車だったということ。このころ(昭和40年代)の様子は、『富士日記』に詳しくて、夫婦げんかのあとむっちゃ荒い運転して泰淳さんをびびらせたり、雪道や車の故障で苦労したりと、車にまつわるエピソードがたくさん登場するのである。だから、時代こそ違え百合子さんと同じ名前の車に乗っていることは密かな喜びだったのだ。

そんなことを言いつつも、実のところ、新車を見始めた頃から小さなサイズの車が気に入ってきていて、「くろでか号じゃなくてもいいな」なんて気持ちになっていたのである。で、実際しろちび号を運転してみたら、ボディは小さいくせにいっちょまえに元気にぴゅんぴゅん走るし、ハンドルはくるくると軽いわ、切り返しも楽だわと、うれしいことずくめ。けろっと新しい車の楽しさにはまっているのである。薄情なやっちゃ。