とある企業のある人(仮にAさんとしよう。女性、私と同年輩か?)と、仕事上のやりとりをした。ボスがその企業に提出した書類のうち、どうしても必要なのに届いていないものがある、ということで、私が連絡を受けたのだ。

ボスは、研究のアイディアやリーダーとしての牽引力はあるのだが、今ひとつ詰めが甘いタイプだ。大体のことを済ませてしまうと、安心して、興味や関心が薄れてしまう。だから、たった一つの書類が足りないために、全体の進行がストップしたり、混乱をきたしたりということが、しょっちゅう起こる。なので、それをフォローする役がどうしてもこっちに回ってくる。

何度も何度もAさんから催促の連絡をもらい、ボスにその書類を準備してもらい、ようやっとこの問題が解決したとき、ボスがため息をつきながらこう言った。

「いやー、ほんとーにAさんは、しっかりしてるねー」

そのせりふには、ほめていると言うより、妥協を許さないAさんの姿勢に参った!というトーンが、明らかに含まれていた。けれど、私は別の意味で、Aさんのすばらしさを実感していた。

それは、Aさんが、この間一度も、いらいらしたり、こちらを責めるようなそぶりを見せなかった、ということだ。Aさんは「一体いつになったら準備してもらえるんですか?」とか、「もう何度もお願いしているのに、どうなんているんですか?」などとは言わなかった。もしそういう風に責められていたら、彼女からの電話を受けるのが苦痛だっただろう。彼女からの電話だとわかっただけで逃げ出したい気持ちになっただろう。けれど、ああAさんだ、鬱陶しいなあ、という気持ちには一度もならなかったのだ。それどころか、電話を切ったあとは必ず、これは何とかしなくては、という使命感が芽生えたのだ。確かに催促の電話が度重なるうち、彼女に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになった。けれども、電話を切った後は、なぜか、一刻も早くボスにその書類に取りかかってもらおうようにお願いしよう!という気持ちになったのだ。

不愉快な思いをさせず、相手を動かす、その手腕を見習いたいと、強く思った。