19.「五日の夜は、殿の御産養」

9月15日。誕生5日目の御産養。道長主催。宴はたいそう盛大で、夜更けまで続く。男子誕生に誇らしげな道長家の面々。たくさんの篝火に彼らの表情が浮かび上がるのを、紫式部はじっと観察していたのだろう。「色ふしに立ち顔晴れがましい場に立ち望んだという、いかにも得意げな表情」、「および顔自らの念願が叶ったという顔つき」、「時にあひ顔よい時のめぐり合わせにあったという得意げな表情」と書き分ける。

そのあと、彰子に御食膳を差し上げる髪上げした女房たちの様子が「いときよげにはべりしかなたいそう気品のある美しさでしたよ」、御帳台の東に居並んだ大勢の女房たちの様子は「こそ見ものなりしか実にみごとな見物でありました」と誇らしげに書く。

その素晴らしさを、どうしても誰かに見せたかったんだろう。紫式部は屏風を押し広げて、夜居の僧に彼女たちの様子を見せるのだ。控えめというイメージのある式部でさえ、ついこんな行動をとってしまう。それほど、この夜のイベントは豪華で、華やかで、なおかつ人々の喜びに満ちたものだったんだろう。はしゃいでいる式部ちゃんに親しみを感じてしまうシーンだ。

この節で注意すべきは、「何ばかりの数にしもあらぬ五位どもなども何ほどの人数(ひとかず)にも入らぬ五位どもまでもが」の「五位ども」。式部の属している階層の者たちを、「五位ども」と見下すように書いていること。