灯りに誘われて

仕事帰りに車を車検に出した。ので、家まで電車と徒歩で帰る。

電車を降りてから家までの道のりは、前半が商店街、後半が住宅地である。すでにあたりは真っ暗。通りの店々からこぼれてくる光がまぶしい。昭和30年代にタイムスリップしたかのようなこの商店街は、昼間とはまた違ったムードをかもしだしていた。

夫は第1弾の忘年会、娘は塾で帰宅は8時すぎ。待つ人のいない家は帰る足を鈍らせる。本屋さんや花屋の店先を覗きながら、ぶらぶら歩く。こんな時間にのんびり商店街を歩くなんて、何年ぶりだろう。最初は愉快だった。なのに、だんだん所在なくなってきた。いっこうに開放的な気分に浸れないのだ。どうしてなんだろう。

そんな時、ひときわ私を誘う灯りがあった。最近開店した焼鳥屋だ。どこやらの地鶏を炭火で焼くという。しつらえも今風だ。ガラス越しに、数組の客が楽しそうに談笑しているのが見える。その時、どういう訳かふとその店に入ってみたいという気持ちに駆られた。焼き鳥が食べたかったわけでも、ビールが飲みたかったわけでもない。ただ、ふと、この店に入ってその明るい光の中に身を置いてみたい、ここに入って一息入れてみたい、そう思ったのだ。

そうは思っても、店に入っていく勇気はない。かといって家に向かって歩き出すこともできずに、店の前で立ちつくした。途方にくれた子どものように。ほんの数秒のことのような気もするし、もっと長い時間だったような気もする。そのうち、お腹を空かせて塾から帰ってくる娘の姿が思い浮かんだ。そうだ、私には家に帰ってしなくちゃいけないことがある。ふうっと我に返って、急ぎ足で家に向かった。