月の光

昨日のこと。

仕事を終えて帰ろうと身支度している時、話しかけてきた人がいた。同じ教室の人だ。ふたことみことの会話だったけど、とても不愉快になった。職場の駐車場に向かいながら、会話を反芻した。だんだん腹が立ってきた。ああ言えばよかった、こう言えばよかったと、今になって思いつく。それを言えば彼女をぎゃふんと言わせることができただろう。

でも一方では、それを言ってしまわないでよかったと思う。言われっぱなしでくやしいけれど、そのひと言をってしまえば、もっと後味が悪かっただろう。さりげない会話のなかに、こうも上手に嫌味を滑り込ませることのできる人がいるのは悲しい。でも、いつまでこだわっていても、どうにかなるものでもない。おおらかな気持ちで相手を許そうと思った。

そうは思っても、怒りの気持ちはなかなか収まらなかった。帰りにスーパーで買い物をしていても、その時のことがよみがえってくる。忘れよう、忘れようと思ってもなお、くやしさが心の中でぶすぶすとくすぶっていた。

買い物を終えて車で家に向かう時、フロントガラスのむこうにまんまるいお月様が見えた。あたたかい光が顔を照らす。私が走るに従って、お月様もついてくる。建物の影に隠れても、また反対側から顔を出す。時々遮られながらも、ずっとついてきてくれる。お月様に見守られているような気がした。

やわらかな光は、心の中の残り火をしゅわしゅわと消していった。