夫の工夫

夜、家を空けると、夫は機嫌が悪い。それがたとえ職場の行事でもだ。

ここのところ2週連続で、2回夜に出かけている。その2回とも夫は寝ずに私の帰りを待っていた。昨夜の歓送迎会は、3週連続3回目の夜のお出かけだ。だから歓送迎会の間じゅう、何時に家に帰れるかということばかりが気になっていた。

1次会が終わって、2次会の会場に移動するみんなと別れる。電車もバスもある時間だけれど、夫がイライラして待っているかもしれないという思いが、足をタクシー乗り場に向かわせる。

そうしてあたふたと家に帰り着いてみると、布団に入ったばかりの娘がもそりと出迎えてくれる。夫は帰っていない。拍子抜けと安堵感で体の力が萎える。

そそくさとお風呂に入って布団に体を横たえていたら、小一時間ほどして夫が帰ってきた。いつの間にかまどろんでいたのだろう、思うように体が動かない。そのまま様子をうかがっていると、鞄を置いたあと夫が私を捜している気配がする。すぐに寝室のふすまがすっと開いて、「帰ってるの?」と声をかけてくる。常夜灯も付けずに真っ暗にしていたから、私が布団にくるまっているのが見えなかったのだろう。「うん、帰ってるよ」と返事をしたら、静かにふすまが閉まった。

今朝になって夫は、「昨日は、残業だったんだよ」と言う。でも私は知っている。昨夜は意識的に残業したことを。私より後に帰宅するために。私の帰宅を待ってイライラするのを避けるために。夫の精一杯のやさしさなのか、抵抗なのかは、わからない。でも、そういうが夫がなんだかいじらしく思えた。