ぎっくり腰2

医者に行った甲斐あって、夫の腰の痛みは随分よくなった。もう一日会社を休む予定にしていたが、出勤するという。言い出したら聞かない質なので、用事を済ませたら帰宅するという約束をして送り出す。

会社に出勤すると、夫のぎっくり腰はすっかり知れ渡っていて、ぎっくり腰談義で話が盛り上がったそうだ。

そんな折、取引先から、すぐに来て欲しいと言ってきたらしい。夫が事情を話して日延べを要請すると、その相手は、

「チャンスは今日しかありませんよ」

とのたもうたという。

確かに、仕事に今日も明日もないだろう。他人の体調不良などにかまってなどいられないだろう。世の中は、夫のぎっくり腰などにはおかまいなく、前へ進んでいるのだ。体調をくずしたほうが、悪い。おいていかれても仕方ないのだ。

それでも、私は、思いやりのないその言葉に腹が立った。「おまえがぎっくり腰になったら、這ってでも仕事しろよ!」と言いたくなった。そして、もしもその人がぎっくり腰になったら、その人の前に立ちはだかって、「チャンスは今日だけですよ。おらおら!!」と、踏みつけにしてやりたいと思った。絶対にその人を許さないと思った。

「それで、どうしたのっ? 行ったのっ?」

と怒って尋ねると、

「行ったよ」

と、こともなげに言う。一瞬、夫のことを「すごいな」と見直したけど、やっぱり腹が立って、「なんでもっと怒らないの!!」というと、「仕方ないよ」とさらりと言うので、ますます腹が立った。怒っているうちに何に腹が立っているのか、わからなくなってしまった。