巣立ち

2匹のヒナを巣箱から出す。
ドキドキの一瞬。

巣箱の扉を開けても、自分たちから出てくるはずもないので、夫が2匹を引っ張り出した。すると、なんということだろう、2匹は立派な正真正銘のセキセイインコだった。セキセイインコの親から生まれたのだから、その子どもがセキセイインコなのは当たり前なのだが、あの小さな卵からこんなに立派なセキセイインコが誕生したことに、そして、あーちゃんきーちゃんが立派に育ててくれたことに、感動というか、安堵というか、充足というか、いろんな感情がわき上がってきた。そして、何もかもが奇跡のように感じられた。

1匹は、それはそれは美しいきみどり色、そして、もう1匹はきーちゃんと同じ、赤い目で黄色一色だった。そして黄色のほうは足が両側に開いていてお腹がぺったりと床に着いていた。

最初はプラスチックの飼育ケースに2匹を移したのだが、どう見てもきみどり色は鳥かごでないと気の毒だ。そのくらい、立派に成長していた。

そこで鳥かごを買ってくるまでの間、親のカゴに入っていてもらうことにした。するとどうだろう。あーちゃんときーちゃんは、突然天敵が入ってきたかのように、カゴの中を逃げ回るのだ。ついさっきまで懸命に育てていたというのに。

確かに飼育本にはヒナが巣立つと親は関心を持たなくなる、と書いてある。しかし、そのきっぱりとした訣別ぶり、というより、赤の他人のような態度に、少々ショックをうけた。それが自然の摂理なのかもしれないが、それにしても過酷だ。きみどりは自分の親たちのそんな態度にショックを受けはしなかっただろうか?逆に、これからは私たちが親代わりになってしっかり面倒を見てやらねば、という気持ちにさせられたのであった。

一方、人間界では「親離れ、子離れ」はとてもやっかいなことなのに、インコたちのそれは、あざやかで見事だなあとも思う。

さて、新しい鳥かごに入れられた、きみどり。まだ移動が下手なので、止まり木に止まるのが精一杯のようだった。差し餌はかたくなに食べようとしない。親と同じ餌にも手を付けない。こんなんで大丈夫かと心配だが、お腹が空けば自分でなんとかするだろう、そう思わせてくれる貫禄十分のきみどりなのであった。

一方、きいろ。これまでうまく機能してこなかった足は、ずいぶんほっそりとしている。そして、なにかをつかむのも下手で、指が丸く固まっている。それでも指でつついてみると、きゅっと力を入れて握りしめてくる。少しほっとする。差し餌は、すぐにばくばくと食べるようになった。栄養をたくさんとって早く治るといいね。ずっと不自由のままでも、ちゃんと面倒見てあげるからね、と声をかけた。